このように混沌としたハイリスクの環境において、変化を先読みして備える力と、日々の組織運営を安定して導く力の両方を兼ね備えたリーダーを、組織はどのようにして見出せば良いのでしょうか?その鍵は、トップリーダーとしてのポテンシャルを的確に評価することにあります。
従来の評価モデルでは、将来有望な人材を見出すことはできても、すでに経営幹部として活躍しているリーダー同士の違いを見極める点では、十分とは言えませんでした。そこで、変化の激しいビジネス環境におけるリーダーシップチームの成功の予測因子を組織が把握できるように、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツでは、リーダーシップ・ポートレートを開発しました。
長年にわたる独自の調査を基に構築されたリーダーシップ・ポートレート・モデルでは、経営幹部の目の前の課題に対応する準備度(レディネス - 関連する経験やリーダーシップ能力)と、将来の可能性(ポテンシャル - 成長要因および潜在能力を最大限に発揮する力)の両面を評価します。RRAはこれまで、幹部の評価と育成において「関連する経験」「コンピテンシー」「成長要因」を重視してきましたが、さらに「ポテンシャル実現力」を加えたことで、組織の最上位リーダー層に対する理解をより一層深めることが可能となりました。
世界中の組織がリーダーシップ育成プログラムに年間600億ドル以上を投資しています。しかし、その投資がリーダーやチームに必ずしも明確な成果をもたらしているとは限りません。こうした状況を踏まえ、当社ではリーダーシップ評価および育成に関するアプローチを拡充しました。これは、変化の最前線に立ち続ける俊敏性(アジリティ)を持ち、不確実な状況下でも冷静に自らの学びを加速させ、企業全体の変革を牽引するビジョンを持った幹部人材を、組織が見極められるよう支援するためです。
Source: RRA proprietary research, 2024
外部人材の採用や後継者選定に伴うリスクを軽減するには?
データに裏付けられたRRAの実績あるエグゼクティブ・アセスメントのアプローチを活用することで、絶えず変化する環境に適応し、組織のパフォーマンスと費用対効果の向上に貢献する「将来に強い幹部人材」を選定・登用することが可能となります。
1970年代には、「ハイポテンシャル人材」の特定が大きな注目を集め、産業心理学者、経営コンサルタント、人事担当者が、企業が将来有望な人材を見極めるための理論やモデルを数多く開発しました。そして、2000年代初頭には、これらのモデルは成長ポテンシャルの要因を測定する方向へと進化しました。その主な目的は、現時点の能力と、より上位の役職で求められる能力との「ギャップ」を埋める可能性が高い人材を特定することにあります。
この数十年の間にビジネス環境は大きく変化したものの、ハイポテンシャル人材の予測因子は驚くほど変わっていません。具体的には、経験から学ぶ力、新しい状況・不確実性・複雑性への対応力、困難に直面しても粘り強さとレジリエンスを発揮する力、そして強固で協力的な人間関係やチームを築く力が挙げられます。こうした資質は、一般的にリーダーとして昇進し、より高い要求水準の役割を担う能力の予測因子と考えられています。
しかし、これらのモデルは、有望な人材の発掘や将来のリーダーの育成には役立ってきた一方で、すでに経営幹部として活躍しているリーダー同士の違いを見極めるという観点では、十分な効果を発揮しているとは言えませんでした。
現在、組織は自ら積極的に学習を深め、組織変革を効果的に主導できる上級幹部を見極める必要性に迫られています。しかしながら、未来志向で変革を牽引できる上級幹部と、変化への対応が十分でないリーダーとを区別する資質は、未だ明確に定義されておらず、体系的に測定されてもいません。また、こうした基準に基づいて人選を定義し、正当化し、支援できる組織もほとんど存在しないのが実情です。
従来のポテンシャル測定から、経営幹部としてのポテンシャルをより繊細かつ流動的に把握するアプローチへと進化させるには、根本的なパラダイムシフトが求められます。つまり、過去の実績や現在の能力だけでなく、変化の絶えない環境において幹部が活躍できるかどうかを左右する、目には見えにくい多様な要因を幅広く測定する方向へと転換する必要があります。
経営幹部がポテンシャルを最大限に発揮できるかどうかを決定する資質は、多面的・重層的であり、個人差も大きいため、私たちはもはやポテンシャルを先天的で変わらない才能とは捉えていません。むしろ、リーダーのポテンシャルは動的で進化し続け、さまざまな要因から影響を受けるものです。従来の特性ベースのポテンシャルモデルでは、能力開発の重要性があまり強調されていませんでしたが、当社のモデルでは、変化の中でリーダーが力を発揮し、成長するための具体的な能力開発の道筋を示すとともに、目的・意義・自己との整合性についての対話を促すことで、持続可能なキャリアの選択を後押しします。
ここで重要なのは、トップの役職に就くことが「ポテンシャルの実現」ではないという点です。世界がますます複雑化していく中で、役割は絶えず変化し、求められる基準も常に更新されていきます。つまり、ポテンシャルの実現とは終わりのない旅であり、たとえ最上位の経営幹部であっても、取り巻く環境や課題が変われば、その都度適応し続けなければならないのです。
ポテンシャル実現力に新たに着目したことでパラダイムの転換が生まれる
出典: ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ(RRA)独自の調査、2024年
経営幹部がトップの役職に就くための準備が現時点でできているか(レディネス)を測る指標には、主に関連する経験とリーダーシップコンピテンシーの2つがあります。リーダーシップアドバイザリー分野をリードする企業として、RRAはこれらの指標を日々評価しています。リーダーの「関連する経験」は、比較的分かりやすい要素です。RRAの専門家は、候補者の経歴や主な実績、リーダーシップ経験を詳細に確認し、職務要件を満たせるかどうかを見極めています。
2017年以来、当社は独自のLeadership Span Model™を活用し、科学的根拠に基づいたフレームワークでリーダーのコンピテンシーを評価してきました。Leadership Spanでは、上級管理職に昇進できる人材の特徴として、4つの主要な二面性を巧みに使い分ける能力に着目し、評価を行っています:
このモデルは、各個人のリーダーシップの幅(スパン)を特定する目的で開発されました。たとえば、弱さを見せることと英雄的であることは一見相反しているようですが、最も優れたリーダーはこうした二面性を兼ね備えています。
出典: ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ(RRA)独自の調査、2024年
長年にわたる共同研究(具体的な方法論については下記を参照)を通じて、最も成功している上級管理職は、ポテンシャル(潜在能力)の予測因子となる2種類の変化対応力、すなわち成長要因とポテンシャル実現力を絶妙なバランスで持ち合わせていることが分かりました。
リーダーシップのポテンシャルを測るうえで、有効な指標として引き続き確立されている成長要因には、以下の項目が含まれます。
当社の評価アプローチの新しい構成要素であり、次の3つの要素の総称です。
1. 自己理解: 自分の強みと限界の双方について鋭い洞察を持っています。これには、役割に対する現実的な期待を理解し、自己実現の阻害要因に対処する方法や、今自分が成長過程のどこにいるかを的確に認識する力が含まれます。さらに、自分が最も力を発揮して成長できる環境や条件を敏感に察知する感受性も重要です。
「自分自身を知ることは、リーダーとして実績を重ねていくうえでの土台です。自己認識力が高いリーダーは、どんなに激しい変化の中でも、自分や組織にとって本当に重要なことに集中し続けることができます」- CEO(RRAとの対談より)
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90%世界の経営幹部のうち、「自己の能力について内省の時間を持つこと」が現在の役割への備えとして役に立ったと回答した人の割合 出典: ラッセル・レイノルズ・アソシエイツが実施した2024年上半期のGlobal Leadership Monitor、n=経営幹部1,506名 |
2. 信念と状況把握: 長期的な成功を収めるリーダーは、自身の価値観、動機、志を明確に理解しています。個人的な道徳観や原則、そして譲れない信念が日々の決断や行動の根底にあり、原則と現実のバランスを取りながら優先順位を設定し、必要に応じて慎重に妥協する術も心得ています。
95%世界の経営幹部のうち、自らの価値観と志を明確に把握することが現在の役職に備えるうえで重要だったと回答した人の割合 出典: ラッセル・レイノルズ・アソシエイツが実施した2024年上半期のGlobal Leadership Monitor、n=経営幹部1,506名 |
「リーダーシップにおける俊敏性(アジリティ)は重要ですが、不確実な状況下でも揺るがずにビジョンを持ち続ける力とのバランスが取れていなければ、組織は停滞してしまう可能性があります。リーダーには明確な方向性と推進力が不可欠です。私の知る限り、機敏に行動できるCEOは多く存在しますが、彼らと話す時は『頻繁に考えを変えすぎないように』と繰り返しアドバイスしています」- 現取締役会長(RRAとの対談より)
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3. 使命感と社会への貢献志向: このタイプのリーダーは、自身の枠を超えて視野を広げ、自らの職業上の目的や、チーム・組織・業界・社会・世界といった広範なエコシステムにどのような影響を与えたいかを明確に語ることができます。また、自らのリーダーシップが長期的に及ぼし得る影響を認識しており、どのようにレガシー(後々まで残る功績)を築いていくのか、現在はどの段階にいてどのような取り組みをしているのかを説明することもできます。
「CEOには、リーダーシップチームに『建設的な刺激』を与え、組織に存在するギャップを明らかにする役割が求められます。変化のスピードが増す昨今において、こうした役割の重要性はますます高まっています。未来志向のCEOとして、日常業務に専念しているチームが、より高次元で将来のリスクを考えられるように支援する必要があります」- 前CFOおよび現取締役(RRAとの対談より)
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84%世界の経営幹部のうち、リーダーとしてどのような影響とレガシーを残したいかを明確に認識することが現在の役職に備えるうえで重要だったと回答した人の割合 出典:ラッセル・レイノルズ・アソシエイツが実施した2024年上半期のGlobal Leadership Monitor、n=経営幹部1,506名 |
リーダーによっては、成長要因またはポテンシャル実現力のいずれかに偏りが見られる場合もありますが、この2つは本質的には密接に結び付いています。成長要因が個人として到達し得る「天井」の高さだとすれば、ポテンシャル実現力はその天井を支える壁の堅牢さを示していると言えます。
RRA proprietary research, 2024
RRA proprietary research, 2024
もちろん、経営幹部がこれらすべての特性を同時に発揮する必要がある訳ではありません。むしろ、健全な判断力とは、状況に応じて最適なアプローチを選択し、使い分ける能力に他なりません。たとえば、組織変革の初期段階では、経営幹部には俊敏性を発揮し、大胆な意思決定を行い、チームをイノベーションへと導くことが求められる場合があります。一方で、変革が進むにつれて、忍耐力を発揮し、コアバリューや長期的な目的を中心にチームをまとめることで、ストレスや混乱、挫折といった困難を乗り越え、より効果的なリーダーシップを発揮できる場合があります。
当社のクライアントである上場工業系企業では、長年にわたりCEOを務めてきた現職者が予定より早く退任することを発表し、新たなCEOの選出が急務となりました。
社内からは2名の後継候補が浮上しました。そのうち1名は業界で広く知られ、尊敬を集めている同社の現職COOです。豊富な実績を持ち、部門間の連携や明確なコミュニケーションへの取り組み、困難な局面でのレジリエンスの発揮など、成長要因に該当する力も持ち合わせていました。
もう1人の候補者は同社のCFOで、事業開発、財務、成長変革など幅広い分野において戦略面での豊富な経験を持っていましたが、オペレーション領域での経験は限られていました。前職の雇用主からは、勇敢で誠実、そしてリスクを恐れない人物だと評されていました。
この組織には保守的な文化が根付いており、これまでは業界知識が豊富で「低リスク」とされるリーダーを選ぶ傾向にありました。そのため、当初はCOOが後継者として有力視されていたのです。
しかし、当社のリーダーシップ・ポートレート・モデルで評価したところ、CFOの方がより多面的で魅力的なリーダーシップ特性を備えていることが明らかになりました。将来を見据えると、ビジネス環境がますます複雑化していく中でも適応し続けることができるリスク志向のリーダーがこの組織には必要でした。私たちは、CFOの優れた判断力、深い自己認識、学習意欲、戦略的思考力、そして真摯な対人スキルが際立っていると判断しました。まず、業界における商品価格の変動が激化する状況下では、組織の戦略と文化を思慮深く尊重しながら、リスクを恐れない機敏なリーダーが求められていました。加えて、CFOは価値観を重視し、現実的でもあったため、大規模な経営チームや多様な地域社会、政治的に複雑な状況といった利害関係の絡む環境にも適応できる人物でした。さらに、クライアント企業は、影響力のある取締役と自我を抑えて協働できるリーダーを求めていました。私たちのアセスメントの結果、CFOには傲慢さがなく、むしろ自身の影響力を大局的な視点で捉え、組織全体が将来にわたって残していくレガシーに貢献しようとする姿勢が際立っていることが確認されました。
従来求められてきた経験は不足していたものの、当社のリーダーシップ・ポートレートによって、CFOが学習能力や変化・リスクへの対応力といった潜在能力を十分発揮できる力を持ち合わせていることが明らかになりました。この結果を受けて、同社はCFOをCEOに昇格させました。就任後2年間でCEOとして優れた成果を挙げ、同社の株価は約60%上昇し、その能力に対する信頼が一層高まりました。
- - TCW、社長兼CEO、Katie Koch氏(2024年8月、RRA Redefiners Podcastより)。
経営幹部の配置や異動を判断する際には、その役職への準備度(レディネス)と適性を慎重に見極めることが重要です。しかし、変化のスピードが加速し、リーダーシップの求められる環境が複雑化するにつれて、もはやレディネスを短期的に測るだけでは十分ではありません。むしろ、リーダーが役割とともに適応し、柔軟に成長できる力、逆境の中でも方向性を見失わない力、そして初めて直面する状況でも効果的に行動できる力を備えているかどうかを見極めることが、組織にとって求められます。
そのため、当社のリーダーシップ・ポートレートでは、短期的なレディネスだけでなく、将来に向けたレディネスにも対応しています。リーダーが現時点でその役職の責務を果たせるかどうかに加え、近い将来に起こり得る変化や変革の中でも組織を率いていけるかどうか、その両方を評価します。
先行きが不透明な未来においても活躍するには、強い学習意欲、レジリエンス、そして高い感情知能が必要です。さらに、自らの行動や決断の背後にある「なぜ」をしっかりと把握しているリーダー、自身の成長に対して正直に向き合い、深い洞察をもって自己研鑽に努めるリーダー、そして自身のリーダーシップが将来にどのような影響やレガシーを残すのかを理解しているリーダーが、これからはより一層求められるでしょう。
Dana Landis is a member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory practice. She is based in San Francisco.
David Lange leads Russell Reynolds Associates’ Global Development capability. He is based in Chicago.
Dean Stamoulis is a senior member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory practice. He is based in Atlanta.
Aimee Williamson is a senior member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory practice. She is based in Sydney.
Erin Zolna leads Russell Reynolds Associates’ Global Assessment capability. She is based in New York.
Avani Arora is a senior member of Russell Reynolds Associates’ Strategy & Excellence team. She is based in Chicago.
Justin Cerilli leads Russell Reynolds Associates’ Global Capabilities. He is based in Stamford.
Leah Christianson is a member of Russell Reynolds Associates’ Center for Leadership Insight. She is based in San Francisco.
Jerry Doaty is a member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory practice. He is based in New York.
Gabrielle Lieberman is a senior member of Russell Reynolds Associates’ Center for Leadership Insight. She is based in Chicago.
Randy Octuck is a member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory Knowledge team. He is based in Portland.
Todd Safferstone leads Russell Reynolds Associates’ Strategy & Excellence team. He is based in New York.
Alix Stuart is a member of Russell Reynolds Associates’ Leadership Advisory practice. She is based in Boston.
方法論ラッセル・レイノルズ・アソシエイツでは、以下の段階を踏んでリーダーシップ・ポートレート・モデルを作成しました。
こうして収集・分析した情報から、以下の2つの一貫したテーマが浮かび上がりました。
2つ目のテーマをさらに深く掘り下げるために、急速に変化するビジネス環境において経営幹部が長期的な成功を収めるうえで役立つ特性は何かを、当社のリーダーシップ専門家に尋ねました。そこで得られた回答をもとに、経営幹部のポテンシャルに焦点を当てた2部構成のモデル(成長要因とポテンシャル実現力)を構築しました。 この新しいモデルの妥当性を検証するために、関連する文献の広範なレビューを実施しました(詳細は以下の文献レビュー付録をご参照ください)。
成長要因とポテンシャル実現力の測定特定された成長要因(好奇心と適応力、推進力とレジリエンス、社会的知性、システム思考)は、それぞれの構成要素に紐づく主な指標を、信頼性の高い心理測定ツールを使用して測定しました。数十年にわたって経営幹部を評価してきた経験を持つ社内専門家パネルが、テスト提供企業と協力してこれらのマッピングを検証しました。その結果、業界最先端のツールを当社の成長要因モデルにマッピングできるようになり、RRAが保有する数千人規模のシニアリーダーのベンチマークと比較して、各リーダーの立ち位置を評価できるようになりました。 一方で、ポテンシャル実現力(自己理解力、信念と状況把握力、使命感と社会への貢献志向)については、現行のパーソナリティ、阻害要因、モチベーションを測るツールでは十分に測定できませんでした。そこで私たちは、これらの要素を評価するための新たなインタビューガイドと評価基準を独自に開発しました。 |
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